
治療例 CASES
胆嚢粘液嚢腫
2026年10月7日(水)
犬の胆嚢粘液嚢腫
胆嚢(たんのう)とは: 
肝臓で作られた「胆汁(たんじゅう)」を貯蔵・濃縮する臓器。
食事を摂ると、総胆管を通って十二指腸へ胆汁を分泌し、脂肪の消化を助けます。
胆嚢粘液嚢腫とは:
濃縮された胆汁やムチン(粘液成分)が過剰に溜まり、
ゼリー状(半固形)に固まって動かなくなってしまった状態です。
1. 発生の要因・リスク
明確な原因は未解明ですが、以下の要因との関連が強く指摘されています。
- 年齢・サイズ:中高齢(平均9〜10歳)の小型犬〜中型犬に多い。
- 好発犬種:日本国内では、ポメラニアン、アメリカン・コッカー・スパニエル、シェットランド・シープドッグ、ミニチュア・シュナウザー、チワワ。
- 基礎疾患・薬剤:
- 内分泌疾患(副腎機能亢進症/クッシング症候群、甲状腺機能低下症)
- 高脂血症(症例の約半数で認められる)
- イミダクロプリド(ノミ・マダニ駆除薬)の関与
2. 症状と診断
主な症状
無症状で健康診断時に偶然見つかるケースも多いですが、進行すると以下の症状が現れます。
- 嘔吐、食欲不振、活動性の低下
- 腹部痛(お腹を痛がる)
診断アプローチ
腹部超音波検査を主体とした画像検査で診断されます。
腹部超音波検査では、胆嚢の辺縁に低エコー性の粘液が貯留し、中心部に高エコー性の胆泥が貯留します。キウイフルーツ様や放射状、星状と表現される内容物が見られると特徴的です。過剰な粘液貯留の結果、胆道閉塞や胆嚢破裂に至り、重篤な症状を呈することがあります。ただし超音波検査だけで胆嚢破裂を診断することは困難で、CT検査を行うことでより詳細な画像検査が可能になります。
3. 治療と予後
治療法は、病期や全身状態に合わせて「外科治療」か「内科治療」が選択されます。
1.病態の評価と治療方針の決定:外科 vs 内科。
胆嚢破裂や肝外胆管閉塞を起こしている、あるいはその危険性が極めて高い場合は緊急の外科手術(胆嚢摘出)が強く推奨されます。無症状、または併発疾患(クッシング症候群など)がある場合は、内科治療から開始するか慎重に判断します。
2.内科治療(保存期・維持期):薬物&食事療法。
十分なエビデンスは確立されていませんが、一般的に以下の治療を行います。
- 薬物療法:ウルソデオキシコール酸、抗菌薬の投与
- 食事療法:低脂肪食への切り替え
- 基礎疾患の治療:高脂血症や内分泌疾患のコントロール
3.予後の見通しと管理:生存率の向上へ。
外科手術(胆嚢摘出)の周術期死亡率は 数%〜40% と幅がありますが、無事に乗り越えた後の長期的な生存率や予後は、内科治療を続けた場合よりも外科治療を行った場合の方が期待できるとされています。
4. 症例紹介
症例はトイプードル、13歳、去勢オスのワンちゃんです。胆嚢粘液嚢腫による食欲廃絶、嘔吐の治療のため当院に紹介されました。来院時の血液検査では肝酵素値の上昇、白血球、CRP軽度上昇が認められました。腹部超音波検査では胆嚢の辺縁に低エコー性の胆汁が貯留し、内部に高エコー性の貯留物が認められ、胆嚢粘液嚢腫と診断されました(図1)。
前述の通り、超音波検査での胆嚢破裂の検出率は高くないため、CT検査も行い(図2)、胆嚢の壊死や胆嚢破裂、腹膜炎の所見が認められないことを確認しました。
本症例の場合、臨床症状や肝酵素上昇を伴う胆嚢粘液嚢腫であり、治療としては外科摘出が推奨されます。
飼い主様とのご相談の結果、翌日に手術を実施しました。
開腹手術で胆嚢を確認すると、胆嚢は重度に拡張しており、内部には多量の粘液や胆泥が貯留していました(図3、4)。
手術翌日から食事摂取が可能で体調も落ち着いていたため、術後5日で退院し、その後も経過は良好です。
5. まとめ
胆嚢粘液嚢腫は腹部超音波検査にて診断ができる疾患ですが、破裂の有無や周囲臓器への炎症の波及、胆嚢以外の病変の見逃しがないかなどを調べるためにCT検査も非常に有用な検査です。
当院では各種検査を通して病気の診断だけではなく、病態を正確に把握し、速やかな外科手術に対応できるよう努めております。
胆嚢粘液嚢腫はペットドッグや健康診断でも見つけることの出来る病気ですので定期的な健診をおすすめします。
また、何かご不安な症状がありましたらお気軽にお問い合わせください。



