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猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)

2026年10月17日(土)

CTで多臓器の脱出と心肺の圧迫を評価し、外科治療を行った症例

 

腹膜心膜横隔膜ヘルニアとは

腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)は、横隔膜の先天的な欠損部を通って、お腹の臓器が心臓を包む心膜内へ入り込む病気です。症状がほとんどなく、健康診断などで偶然見つかることもあります。脱出する臓器の量が多い場合には、心臓や肺が圧迫され、呼吸器症状や消化器症状につながることがあります。(文献1–3)

症状

無症状のこともありますが、呼吸が速い、運動を嫌がる、元気・食欲の低下、嘔吐などがみられることがあります。胸部レントゲンで心陰影の異常として偶然発見される場合もあります。

 

診断

レントゲン検査や超音波検査で疑い、CT検査で横隔膜の欠損部位、脱出臓器、血管や胆管の走行、心臓・肺への圧迫を詳しく評価します。レントゲンは術前・術後の変化を比較するうえでも有用で、手術を検討する場合にはCTによる術前評価が特に重要です。

 

治療

症状がなく影響が小さい場合には経過観察を選択することもあります。一方、脱出臓器が多い場合や心肺の圧迫、血流障害、絞扼などが懸念される場合には、脱出臓器を腹腔内へ戻し、横隔膜の欠損部を縫合閉鎖する外科手術を検討します。(文献1–3)

 

今回の症例

5歳、ラグドール、未避妊メスの猫です。大きな症状はなく、普段から「食べるのが少し遅い」程度でした。健康診断の胸部画像検査をきっかけにPPDHが疑われ、詳しい評価のためCT検査を実施しました。

術前・術後のレントゲン比較

術前の胸部レントゲンでは、心膜内へ脱出した腹腔内臓器の影響で心陰影が大きく見え、肺が圧迫されていました。手術後は脱出臓器が腹腔内へ戻り、心陰影と横隔膜の輪郭が明瞭となり、肺野の拡張も確認できます。

レントゲン検査でPPDHを疑うことはできますが、どの臓器が脱出しているか、血管や胆管がどのように走行しているかまで詳しく評価するため、今回はCT検査を行いました。

CTでは、横隔膜腹側に約45×26 mmの欠損を認め、肝臓の一部、胆嚢、十二指腸、小腸の大部分、膵臓右葉が心膜内へ脱出していました。脱出臓器により心臓と肺は強く圧迫され、肺には圧迫性無気肺が疑われました。明らかな腸管・胆管・大血管の絞扼や、強い癒着を示す所見は認めませんでした。

 

手術

腹部正中切開でアプローチし、心膜内へ脱出していた臓器を腹腔内へ慎重に整復しました。整復後に横隔膜の欠損部を確認し、周囲組織や臓器の状態を確認しながら欠損部を縫合閉鎖しました。長期間圧迫されていた肺が急激に広がらないよう、麻酔・呼吸管理にも注意して手術を行いました。

 

 

手術で注意する主なリスク

  • 麻酔中の低酸素、血圧低下、不整脈などの呼吸・循環リスク
  • 脱出臓器や周囲組織の癒着剥離に伴う出血、臓器損傷
  • 横隔膜欠損部の縫合後の再発
  • 長期間圧迫されていた肺が急に広がることで起こる「再拡張性肺水腫」
  • 術後の呼吸状態悪化により、酸素管理や集中治療が必要となる可能性

 

この症例で特に注意した点

今回の症例では、脱出臓器の量が多く、肺が長期間強く圧迫されていたと考えられました。そのため、臓器を整復した後に肺を一気に再膨張させず、術後も特に数時間は呼吸状態を厳重に観察しました。再拡張性肺水腫は術後早期に発生する可能性があるため、呼吸数、呼吸努力、酸素化などを継続して確認することが重要です。(文献4)

 

まとめ

PPDHは、症状がほとんどなくても健康診断で偶然見つかることがあります。脱出臓器が多い場合には心臓や肺の圧迫、臓器の血流障害につながる可能性があるため、画像検査で状態を詳しく評価することが重要です。当院では、CTによる術前評価から軟部外科手術、麻酔・術後管理まで、症例ごとに治療計画を立てています。

 

藤原智宏

 

参考文献

1. Reimer SB, Kyles AE, Filipowicz DE, Gregory CR. Long-term outcome of cats treated conservatively or surgically for peritoneopericardial diaphragmatic hernia: 66 cases (1987-2002). J Am Vet Med Assoc. 2004;224(5):728-732. doi:10.2460/javma.2004.224.728.

2. Banz AC, Gottfried SD. Peritoneopericardial diaphragmatic hernia: a retrospective study of 31 cats and eight dogs. J Am Anim Hosp Assoc. 2010;46(6):398-404. doi:10.5326/0460398.

3. Burns CG, Bergh MS, McLoughlin MA. Surgical and nonsurgical treatment of peritoneopericardial diaphragmatic hernia in dogs and cats: 58 cases (1999-2008). J Am Vet Med Assoc. 2013;242(5):643-650. doi:10.2460/javma.242.5.643.

4. Stampley AR, Waldron DR. Reexpansion pulmonary edema after surgery to repair a diaphragmatic hernia in a cat. J Am Vet Med Assoc. 1993;203(12):1699-1701. PMID:8307820.

※本ページは、上記文献および当院での診療・手術所見をもとに、飼い主様向けに分かりやすく構成しています。