
治療例 CASES
犬の胸腰部椎間板ヘルニア
2026年5月20日(水)
【概要】
椎間板ヘルニアは椎骨と椎骨の間にある椎間板物質(クッションの役割)が変性して飛び出し、脊髄を圧迫することで発生します。
犬の急性後肢麻痺の原因として最も多い疾患で、病態によりハンセンⅠ型とハンセンⅡ型に分類されます。
【症状】
胸腰部椎間板ヘルニアでは背部痛、後肢の不全麻痺、麻痺、排尿障害、排便障害などが生じます。
症状や麻痺の程度、深部痛覚の有無によりグレードⅠ~Ⅴに分類されます。
【胸腰部椎間板ヘルニアの重症度分類】
| Grade | 状態 | 内科治療 の成績 | 外科治療の成績 | 一般的な考え方 |
| Ⅰ | 痛みのみ。歩行は可能 | 約60〜100% | 約97% | まずは安静・鎮痛などの内科治療を行うことが多いです。痛みが強い、再発を繰り返す場合は手術を検討します。 |
| Ⅱ | ふらつくが歩ける | 約48〜84% | 約95% | 内科治療で改善することも多いですが、悪化する場合や再発例では手術を検討します。 |
| Ⅲ | 立てない・歩けないが、足は動かせる。深部痛覚あり | 約79% | 約93% | 外科治療の方が回復率が高く、歩けるようになるまでの期間も短くなる傾向があります。 |
| Ⅳ | 完全麻痺。自力排尿困難。深部痛覚あり | 約62% | 約93% | 手術が推奨されることが多いです。内科治療で回復する子もいますが、回復まで時間がかかることがあります。 |
| Ⅴ | 完全麻痺。深部痛覚なし | 約10% | 約61% | 最も重症です。手術を行っても回復しないことがありますが、外科治療の方が歩行回復の可能性は高くなります。 |
【診断】
MRI、CT、脊髄造影またはCT脊髄造影検査を用いて診断されます。
【治療】
内科治療として運動制限(最低4週間)、抗炎症療法、鎮痛、リハビリテーションがあります。
外科手術としては片側椎弓切除術(ヘミラミネクトミー)、小範囲片側椎弓切除術(ミニヘミラミ)、背側椎弓切除術、部分側方椎体切除術、脊椎内視鏡による低侵襲手術などがあります。
【予後】
後肢不全麻痺では内科治療で80%、外科治療では90%以上の改善が期待できます。深部痛覚のある後肢完全麻痺では内科60%、外科93%、深部痛覚のない後肢完全麻痺では内科21%、外科61%という治療成績になり、内科治療でも良好な経過をたどることがありますが、外科を行うことで成功率、回復率、再発率が向上する可能性が高く、外科が推奨されます。
深部痛覚が消失した犬のうち、1割程度が進行性脊髄軟化症(PMM)を発症すると言われています。PMMは脊髄が進行性に壊死し、最終的には呼吸筋の麻痺が生じて、多くが1週間以内に死に至ります。深部痛覚が残っている症例でもPMMを発症することもあり、経過には注意が必要です。
【症例紹介】
症例はペキニーズ、1歳、避妊メスのワンちゃんです。
前日から突然右後肢を跛行するようになり、前医を受診しました。1泊入院し、帰宅後から左後肢も引きずるようになり、当院を受診されました。
当院初診時には、両後肢の不全麻痺を呈していました。自力排尿や深部痛覚は残っていました。
レントゲン検査、脊髄造影CT検査を行い、第1-2間腰椎椎間板ヘルニアのグレード3と診断、ヘミラミネクトミー手術を実施しました。
術後3日目からリハビリを開始し、術後6日目には起立可能になり、術後8日で退院しました。退院後もご自宅でリハビリを継続し、ふらつきながらも自力歩行可能な状態まで回復しました。
単純レントゲン検査:
第 1-2 腰椎間の狭小化
3D CT 画像:
特定された病変部位から、ヘミラミネクトミー
手術により切除する脊椎の関節突起を特定
(画像は別の症例です)
【まとめ】
胸腰部椎間板ヘルニアは軽い痛みから後肢麻痺までさまざまな症状を呈する病気です。背中や腰を痛がる、足がうまく動かないといった症状がありましたら早めに受診しましょう 。
当院では CT 検査や脊髄造影 CT 検査を用いて椎間板ヘルニアの診断を行い、岐阜大学動物病院神経科の学術アドバイザーとも連携して椎間板ヘルニアの診断、治療を行うことができます。ご不安な症状があれば当院までお気軽にご相談ください。
【参考文献】
・Current Approaches to the Management of Acute Thoracolumbar Disc Extrusion in
Dogs
・Prognostic Factors in Canine Acute Intervertebral Disc Disease
・To Cut or Not to Cut: Ground-breaking research on conservative treatment for IVDD
in dogs
・Prognostic Factors in Canine Acute Intervertebral Disc Disease
獣医師 藤原智宏




