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体表腫瘍に対する負担の少ない治療法-モーズペースト-

2025年11月3日(月)

体表腫瘍に対する負担の少ない治療法-モーズペースト-

※この下に自壊した腫瘍の写真があります。抵抗のある方はご遠慮ください

 

【概要】

近年、動物の高齢化や診断技術の進歩に伴い、皮膚や皮下組織に発生する体表腫瘍の診断が増えています。体表腫瘍は良性の場合もありますが、悪性腫瘍の場合には基本的に治療が必要になります(良性の場合にも放置されると出血や感染、動物の不快感につながる事があります)。

腫瘍に対する治療として外科手術や放射線治療、抗がん剤治療等がありますが、本記事では、それらが適応とならない場合(あるいはむつかしい場合)に使用されるモーズ法という治療法をご紹介します。

 

【体表腫瘍とは】

体表に出来る腫瘍には脂肪腫や皮膚組織球腫といった良性のものから、悪性黒色腫や扁平上皮癌、乳腺癌などの悪性腫瘍まで多種多様な種類があります。

悪性腫瘍の場合、基本的には外科手術や放射線治療の適用になることが多く、また腫瘍の根治を目指す場合はその様な治療が原則として必要になります。

ただし高齢の動物で麻酔のリスクが極めて高い、あるいは外科手術で取り除くのが困難な時に今回ご紹介するモーズペーストで動物のQOL(生活の質)の向上を目指す事が出来ます。

 

【モーズペーストとは】

モーズペーストは1940年代にアメリカの外科医によって考案された軟膏です。

これは体表に出来た腫瘍を壊死させる化学療法の一つで、モーズペーストの主成分である塩化亜鉛の働きで、腫瘍細胞の壊死、変性、止血、また抗菌作用も示し、腫瘍からの出血や臭い等を抑える事が出来ます。

元々ヒト医療で考案され、近年では動物医療でも適応され始めています。

犬や猫など小動物だけではなく、インドゾウなど大型動物でも使用されることがあるようです。主に以下の様な特徴があります。

 

  • 腫瘍部分に直接塗布するため、他の正常組織への影響を最小限に抑えられる。
  • 麻酔リスクが高い動物にも使用する事が出来る。
  • 比較的短期間で治療効果を得られる可能性がある。

 

【治療の流れ】

①診断と治療計画

まず初めに、体表に出来た腫瘍の種類がどのようなものか針等を使用して生検し、診断をします(診断には病理医の先生に診ていただくために、採取した細胞や組織を外の検査会社に提出する事があります)。診断後、腫瘍の大きさや位置、外科手術が可能かどうかを獣医師間で検討し、モーズペーストの適応可否を判断します。

 

②実際の治療

モーズペーストを腫瘍に塗布した後は、動物をしばらく病院内で管理しなければいけないため、基本的には半日お預かりする形で処置させて頂きます。

右の画像の様な材料を院内で調剤し患部に使用します。腫瘍周囲の正常な組織を守るため、当院ではワセリンを腫瘍周囲に塗った後に、モーズペーストを腫瘍本体に塗布します。塗布後1時間程でペーストを洗い流します。その後数日間で腫瘍が壊死していきます。

 

③その後のケア

一度の治療で終わることはないため、数日から1週間おきくらいの間隔で同様の処置を繰り返す必要があります。基本的には特別なケアは必要ありませんが、ご自宅での包帯の取り換え等をお願いする事もあります。

 

【治療例】

17歳のパピヨンの女の子で、治療中は少し嫌がりお漏らしをしてしまう事もありますがいつも辛抱強く頑張ってくれます。この子の場合、乳腺腫瘍が大きくなり、出血や臭いが強くなったという理由で当院に受診されました。高齢で麻酔リスクもあり、飼い主様とご相談させていただいた上でモーズペーストを使用したQOLの向上を目指しました。

以下に治療前後の画像を掲載します。

※注意点

元々モーズ法は腫瘍を壊死させ、壊死組織を切除していく事で腫瘍を小さくすることを目的としていますが、動物医療ではどちらかというと大きくなりすぎた腫瘍からの出血や臭いを抑えるために使用している面が強いです。

そのため腫瘍の根本的な治療にはならない可能性が高く、また治療中に動物が痛みや不快感を生じる場合がある為、必要に応じて鎮痛剤の使用やケアが求められます。

 

【まとめ】

様々な理由で外科手術不適応となった場合でも、腫瘍からの出血や臭いが強い場合は、今回ご紹介させて頂いたモーズペーストの適用になる可能性があります。

体表腫瘍でお困りの際はぜひ当院にてご相談ください。

 

 

獣医師 井戸俊佑