治療例 CASES
犬の脊髄炎
2024年7月29日(月)
【概要】
脊髄炎とは脊髄実質で炎症が起こる病気で、様々な原因により生じます。犬猫では稀な病気で、炎症性脳疾患と併発することが多いですが脊髄炎単発でも起こります。
犬では免疫介在性や犬ジステンパーウイルス(CDV)による発症が多いです。一方、猫ではウイルス性が最も多く、猫伝染性腹膜炎(FIP)、猫免疫不全ウイルス(FIV)、猫白血病ウイルス(FeLV)、ボルナウイルス感染症による発症が多いと言われています。
【症状】
犬の脊髄炎では約4割が急性発症、約5割が慢性発症です。
もっとも一般的にみられる神経学的異常は運動失調、麻痺です。重度になると四肢麻痺、尿閉、深部痛覚喪失に至ることがあります。約7割の犬で痛みがあります。
【診断】
臨床症状、神経学的検査、MRI検査や脳脊髄液検査を組み合わせて診断されます。
【治療】一般的に外科療法は適応外で、非感染性脊髄炎では免疫抑制量のステロイドを中心とした内科療法がおこなわれます。
【予後】
2017年のイギリスの論文では中央生存期間669日、安楽死を含めた致死率約5割と報告されています。
【治療例】
症例:トイプードル 9歳 去勢オス
経過:1ヶ月ほど前から散歩に行きたがらず、つまずくことが多くなり、触ると怒るようになった。徐々に歩行異常を呈すようになった。他院にて頚部椎間板ヘルニアの疑いで鎮痛薬やステロイド薬を処方されていたが、痛みが強くなり常に震えているということで、セカンドオピニオンとして当院を緊急受診されました。
当院初診時には横臥状態で起立不能、四肢不全麻痺を呈していました。胸部から腰部にかけて重度の疼痛を認めました。
レントゲン検査や血液検査では大きな異常はなく、疼痛管理の為入院治療を行いましたが、重度の疼痛と起立不能状態は改善しませんでした。
椎間板ヘルニアなどの脊髄疾患を疑い、MRI検査、脳脊髄液検査などの追加検査が必要と考えが実施できる二次病院をご紹介させていただきました。
二次病院での検査の結果、「頚部の特発性脊髄炎」という診断がつき、免疫抑制量のステロイドでの投薬治療が始まりました。
治療開始後5日で自力歩行が可能になるまで回復を認めました。
現在は当院にて症状の再燃がないかを注意深く観察しながらステロイドを減量しているところです。
写真は治療開始後1か月の症例です。右前肢に軽度の麻痺が残るものの、後ろ足や尻尾がぶれてしまうぐらい元気いっぱいな姿を見せてくれました。
歩行異常や麻痺などの神経異常を呈する症例で、当院での神経学的検査、レントゲン検査などで診断が難しい場合には、二次診療施設を紹介させていただいております。(当院では、高度医療施設と連携をとり必要がある子に関してはご紹介させていただいてます)
神経疾患では緊急を要する病気も多くありますので、気になる症状がありましたら早めにご相談ください。
獣医師 大平由子