
治療例 CASES
犬のアトピー性皮膚炎(Canine Atopic Dermatitis: CAD)
2025年11月3日(月)
【概要】
ご自宅のわんちゃんの皮膚の痒みに困ったことはないでしょうか?
今回はわんちゃんの皮膚に痒みをもたらす病気の中でも、遭遇する機会が多いアトピー性皮膚炎について紹介します。
【病態】
犬のアトピー性皮膚炎(Canine Atopic Dermatitis:CAD)はアレルギー反応によって痒みを引き起こす病気で、シーズーや柴犬、マルチーズなどのさまざまな犬種に発生します。3歳未満で痒みが出始めることが多く、83%で耳の痒みも併発するとされています。また、CADでは皮膚のバリア機能の異常がみられるため、細菌が異常に増えてくることも少なくありません。
【症状】
痒みに対してなめたり掻いたりすることで、皮膚の赤み、脱毛、黒ずみなどがみられます。症状の見られやすい体の部位は犬種により異なりますが、指の間や脇、股、耳に痒みが出てくることが多いです。
【診断】
CADは似ている疾患が多く、症状だけで病気を特定することが困難な病気です。そのため、似ている病気を除外していった上でCADであると診断する、という流れが基本となります。
まずは感染症の除外を行います。感染症として特に重要なものは、「皮膚の常在菌の増殖」と「ノミやダニなどの寄生虫症」です。(ノミやダニによる寄生虫症は、病院で処方している予防薬でも予防可能なお薬があります。)
感染症の関与が否定できれば、CAD以外のアレルギー性の病気(食物アレルギー、接触性のアレルギーなど)の除外を行います。食物アレルギーはCADと区別するのが特に難しい病気で、食事に含まれるタンパク質を制限する試験(除去食試験)を行って除外する必要があります。
このように、感染症やCAD以外のアレルギー性の皮膚の病気を除外した上で診断することで、より確実な診断が可能となります。
【治療】
治療にはいくつかの方法があり、ご自宅のわんちゃんの症状や体質に合った治療を模索していくことが重要となります。
- 悪化する原因の管理
CADを悪化させる原因として、ハウスダストや花粉、ノミ、皮膚の常在菌の増殖などが挙げられます。ハウスダストや花粉はそれらに接触するのを防ぐことが大切になってきますが、ノミは予防薬、常在菌の増殖はシャンプーや外用薬での管理が可能です。
- 薬物療法
薬物療法は、大きく分けて外用療法(塗り薬)と全身療法(飲み薬)に分けられます。外用療法は主に脇・股だけなど、ピンポイントの病変に対して行うことが多いです。全身療法は主に、身体のいろんな部位で病変が見られる場合に対して行います。
- スキンケア
症状に応じて、外用薬や内服薬だけでなくシャンプーや保湿剤によってスキンケアも行います。シャンプーごとに含まれている成分やその濃度が異なるため、皮膚の状態をしっかりと確認した上で使うシャンプーやその頻度を変更することが重要になってきます。
- サプリメント
内服薬や外用薬の使用量を減らすことを目的としたサプリメントの使用も検討することがあります。実際に、それまで内服薬の量を減らすと痒みがぶり返していたが、サプリメントを使用することで毛艶が良くなり、痒みが改善したというCADの子もいました。
【まとめ】
このように、CADにはたくさんの治療法があります。そのため、一つの薬で効果が出なくても、他の薬で痒みのコントロールができたという子も多いです。治療法は痒みがひどい時、落ち着いてきた時や、その子の症状や体質に合わせて選択する必要があり、治療法が定まるまでは少し大変な場合もあります。ですが、合う治療法が見つかれば、本人のQOLを低下させることなく病気と付き合っていくことができることも多いです。
CADは身近な病気ですが、生涯の治療が必要になってくる病気です。もしご家庭のわんちゃんに痒みや皮膚の赤みなどがみられましたら、お気軽にご相談ください。
獣医師 永田絢子

