
治療例 CASES
犬と猫のワクチンについて
2026年1月30日(金)
【概要】
世界小動物獣医師会(World Small Animal Veterinary Association, WSAVA)は世界的な犬と猫のワクチンに対するガイドラインを作成しています。前回は2016年に更新されましたが、2024年にも新しいガイドラインが発表されました。以下にその概要を紹介します。
【ワクチンの種類について】
○コアワクチン:状況や生活環境にかかわらず、すべての犬猫に接種すべきワクチンで、世界中で感染が認められる重要な感染症を防ぐもの
○ノンコアワクチン:生活環境やライフスタイルによって感染症のリスクが高いと思われる犬猫に接種が推奨されるワクチンで、免疫持続期間は一般的に1年とされる
【接種スケジュールについて】
母親から受け継がれる免疫(移行抗体)が幼少期のワクチン効果を阻害することがわかっています。移行抗体がなくなるタイミングは兄弟間でもばらつきがありますが、多くの場合8−12週までと考えられているため、6−8週齢で初回接種し、16週齢以降まで2−4週間間隔での接種が推奨されます。
ただ、移行抗体が持続することで初年度のワクチン効果が得られない個体もいるため、生後6ヶ月に追加接種を実施することが推奨されています(ブースター接種)。ただし、抗体検査で抗体が確認された場合は接種しなくても構いません。
初年度接種ならびにブースター接種が済んだ後は、コアワクチンに関しては免疫が数年〜生涯持続するため、基本的には3年毎よりも短い間隔で接種すべきではないとされます(ノンコアワクチンを除く)。
【犬のワクチネーションガイドライン】
○コアワクチン:犬ジステンパーウイルス(CDV)
犬アデノウイルス(CAV1型および2型)
犬パルボウイルス2型(CPV-2)
→初年度…6−8週齢で初回接種し、16週齢以降まで2−4週間隔で接種
6ヶ月齢でブースター接種あるいは抗体検査
→次年度以降…3年毎に追加接種あるいは抗体検査
※ 狂犬病ワクチン:日本では狂犬病予防法に基づき犬の登録と毎年の予防接種が義務付けられている
○ノンコアワクチン
- レプトスピラ症:ネズミなどの野生動物が保有し、犬猫が感染すると尿に排泄された菌から人にも感染する(人獣共通感染症)。
★家の周りに野生動物がでる、ドッグランやキャンプに行くワンちゃんにおすすめ
→初年度…8週齢以降で初回摂取し、2−4週間隔で1回追加接種(2回目は6週以内に接種)
次年度以降…1年毎の追加接種
※2024年版より流行地域ではコアワクチンに分類
- 犬パラインフルエンザウイルス:仔犬のころに感染することが多く、咳やくしゃみ、鼻水などの呼吸器症状を起こす
★ペットホテルやドッグランに行くワンちゃんにおすすめ
→初年度…6週齢以降で初回接種し、16週齢以降まで2−4週間隔で接種
次年度以降…1年毎の追加接種
【猫のワクチネーションガイドライン】
○コアワクチン:猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)
猫カリシウイルス(FCV)
猫ヘルペスウイルスⅠ型(FHV-Ⅰ)
<感染リスクが低い場合> 例)室内飼育、ワクチン接種済みの猫と同居している
初年度…6−8週齢で初回接種し、16週齢以降まで2−4週間隔で接種
6ヶ月齢でブースター接種あるいは抗体検査
次年度以降…3年毎に追加接種あるいは抗体検査
<感染リスクが高い場合> 例)多頭飼育で屋外へでる、定期的にペットホテルを利用する
FCVには複数の株があり、強毒のFHVー1を防御できるワクチンは存在しないことから、
コアワクチンでも1年毎の接種が推奨される
(ホテル利用の場合、滞在の1−2週間前の接種が有効)
※ただしワクチンを接種してもFCV、FHVの感染が起こる可能性があります
○ノンコアワクチン:
- 白血病ウイルス(FeLV):感染猫の唾液から感染し、白血病やさまざまな病気の原因となる
→屋外へでる(屋外へでる猫と同居している)FeLVへの感染がない1歳齢未満の猫に対して
8週齢で初回接種し、3−4週後に1回追加接種
※1歳以上の猫では感染しても10%程度しか持続感染しないため、次年度以降はリスクが高いと判断された場合のみ追加接種 ※2024年版より流行地域ではコアワクチンに分類
- 猫免疫不全ウイルス(FIV):ケンカの傷から感染することが多く、さまざまな慢性疾患を起こす
→初年度…8週齢で初回接種し、2−3週間隔で2回追加接種
→次年度以降…感染リスクが高い場合は1年毎に追加接種
※有効性に関しては議論の余地があり、感染猫との接触を断つことが最も重要な予防策とされています
※2025年現在、国内ではメーカーによる販売が終了しています
【よくあるご質問】
◉ワクチン接種後どのくらいで免疫が成立するか
→個体、ワクチンの種類、感染症により異なります。CDVワクチンでは1日以内に防御効果がもたらされますが、不活化CPVー2ワクチンや猫のコアワクチンに関しては約2週間かかるとされます。
◉小さい時にワクチンを打って以来久々の場合や、ワクチン歴が不明な犬猫を引き取った場合
→犬の場合は1回の接種で十分な免疫効果が得られます。
レプトスピラ、パラインフルエンザの場合は2回の摂取が推奨されます。
→猫の場合はFPVに関しては1回で十分ですが、FHV-1/FCVに関しては2−4週間隔で2回の摂取が推奨されます。
◉猫の摂取部位について
→猫注射部位肉腫(FISS)という癌が、ワクチンを摂取した猫5,000−12,500頭あたり1件の割合で発生することがあり、FeLVワクチンと狂犬病ワクチンが高リスクとされています。発生してしまった場合には広範囲に外科的切除を実施しなければいけないため、それが可能な部位への接種(後肢や尾など)や毎回違う部位への接種がよいとされます。
◉ワクチン有害反応について
→ワクチン後の有害反応は犬で10000頭に30頭、猫で10000頭に50頭であり、そのほとんどが非重篤な反応(一過性の発熱、嗜眠、アレルギー反応など)とされています。2023年のアメリカの研究では、ダックスフンド、ボストン・テリア、ミニチュア・ピンシャー、フレンチ・ブルドッグ、ハバニーズはリスクが高いとされています。
→一度有害反応が起きた場合は、抗体価検査や事前に有害反応を抑制する薬を投与するなどの対応が必要になるため、獣医師にご相談ください。
◉遺伝的に免疫応答が弱い犬がいると聞いた
ロットワイラーなど遺伝的にワクチンに反応しにくい犬種の場合は、同様のワクチネーション実施後に20週齢で抗体検査を実施することが推奨されます。ただし再接種しても反応がない犬(ノンレスポンダー)もおり、その場合は繁殖に使用するべきではありません。犬ではCDVについては5000頭あたり1頭、CAVについては10万頭あたり一頭、CPVー2については1000頭あたり1頭存在するとされています。
◉FeLV/FIV感染猫にワクチンを接種すべきか
症状のない感染猫に対しては感染症リスクを最小限にするため、室内飼育をして他の猫から隔離するのが理想とされています。必要であれば生ワクチンではなく不活化ワクチンを投与します。また、FeLV/FIVワクチンを接種するべきではなく、発症後のワクチン投与は避けます。
◉ステロイド治療中ですがワクチンを打ってもいいか
抗炎症〜免疫抑制量のステロイド治療中でも、ワクチンによる抗体産生への影響は大きくないことがわかっています。ただし可能であれば、短期間の治療であれば治療終了2週間後、長期間の治療であれば治療終了から3ヶ月あけることが推奨されます。継続治療が必要な場合は薬が低用量になってから、あるいは抗体検査を使用するとよいでしょう。
◉高齢犬にワクチンを打った方が良いか
コアワクチンに関しては、現在のところ生涯に渡り3年毎の接種が推奨されています。ノンコアワクチンに関しては、状況により毎年の接種が必要です。
◉猫に対する過剰なワクチン接種が慢性腎臓病(CKD)を引き起こすことがあるのは本当か
一部の猫用ワクチンは猫の腎臓細胞を使用して細胞培養されており、CKD発症との関連が示唆されています。加齢や歯周病などもリスク因子とされますが、あくまで関連性が示されたに過ぎず、因果関係が証明されたわけではないため、追加の研究が待たれるところです。とはいえ本ガイドラインでは不必要な過剰摂取は避けるべきと強調されています。
ワクチンに関する世界的なガイドラインはご紹介の通りではありますが、初年度の投与回数がかなり多くなってしまうため、当院では初年度は約4週間間隔で3回摂取した後、1歳のお誕生日頃を目安に追加接種をお勧めしております。1人1人に合わせたワクチンプロトコルを一緒に考えていきましょう。また、ワクチン接種の間隔を伸ばすことで来院回数が減ってしまうと、早期発見が難しくなることがあります。半年〜1年毎の健康検査がおすすめですが、体重測定や身体検査だけでもお気軽にご来院ください。
獣医師 中西彩乃
